広告代理店の原価構造。手数料20%の中で、何にいくらかかっているのか

広告代理店の原価は、ほぼ人件費です。手数料20%のうち、運用担当者と関係するスタッフの人件費がおおむね半分前後を占め、残りが管理費と利益になります。つまり発注者が買っているのは、担当者の時間です。担当者が何社を持っているかが分かれば、自社に使われる時間は計算できます。月の手数料が20万円でも、1人が20社を担当していれば、自社に割ける時間は週に数時間です。
広告代理店に手数料を払うとき、その金額が何に使われているかを聞ける機会はほとんどありません。
答えを先に書くと、代理店の原価はほぼ人件費です。在庫もなければ、仕入れもない。売っているのは人の時間です。だから原価構造を理解すると、「払っている金額に見合う時間が、自社に使われているか」という形で費用対効果を判断できるようになります。
代理店の内側にいた立場から、手数料の中身を分解します。
目次
代理店の原価は、ほぼ人件費
一般的な運用型広告の代理店で、手数料に対する費用の内訳は次のような形になります。会社の規模や体制で変わるので、比率は目安です。
| 項目 | 手数料に占める割合の目安 | 中身 |
|---|---|---|
| 運用担当者の人件費 | 30〜40% | 設計、入稿、調整、レポート、打ち合わせ |
| 営業・ディレクションの人件費 | 10〜20% | 提案、折衝、進行管理 |
| 管理費 | 15〜25% | オフィス、ツール、採用、教育、バックオフィス |
| 利益 | 10〜25% | 会社に残る分 |
ここで押さえておきたいのは、手数料の半分前後が人件費だということです。残りも、人を雇い続けるための費用が大半を占めます。
担当者1人あたりの持ち案件数で、使われる時間は決まる
原価が人件費なら、発注者にとっての関心事は1つです。自社に、月どれだけの時間が使われているか。
これは、担当者の持ち案件数から計算できます。
1社あたりの月間作業時間 = 月の稼働時間 ÷ 担当案件数
例:月160時間 ÷ 20社 = 1社あたり8時間(週2時間)
例:月160時間 ÷ 8社 = 1社あたり20時間(週5時間)
この8時間の中に、設計の見直し、日々の調整、レポート作成、打ち合わせ、社内の共有がすべて入ります。打ち合わせが月1時間、レポート作成が2時間なら、実際に数字を見て手を動かす時間は5時間ほどです。
月20万円の手数料を払っていて、作業時間が月8時間なら、時間あたり2.5万円を払っている計算になります。この数字をどう見るかは、その8時間で何が変わったかによります。
原価率が上がる案件、下がる案件
同じ手数料でも、代理店から見た原価率は案件ごとに大きく違います。
| 原価率が上がる(代理店が苦しい) | 原価率が下がる(代理店が楽) |
|---|---|
| 媒体費が小さいのに、求められる作業は同じ | 媒体費が大きく、手数料額も大きい |
| 媒体が多い(Meta・Google・X・LINE) | 1媒体に集中している |
| レポートや報告の形式が独自で、手作業が増える | 標準のレポート形式で足りる |
| 連絡や差し戻しが多い | 判断が早く、やり取りが少ない |
| クリエイティブの差し替えが頻繁 | 素材を発注者側で用意している |
この表は、発注者にとっても使えます。左側に当てはまるほど、代理店の中では「割に合わない案件」になり、優先順位が下がりやすくなるからです。
対策は値下げ交渉ではありません。やり取りを減らす、レポートの形式を標準に寄せる、素材を自社で用意する。代理店の工数を下げれば、同じ手数料でも運用そのものに使われる時間が増えます。
作業の工数は、以前より減っている
ここ数年で、入稿、レポート作成、数値の整形といった定型作業は、自動化と機能の進化でかなり減りました。一方で、料率は20%のまま据え置かれていることが多いです。
これ自体は悪いことではありません。浮いた時間が、数値の解釈や改善の設計に回っていれば、発注者の受け取る価値は上がります。
問題は、浮いた時間が他社の案件に回っているだけのときです。見分け方は単純で、提案の中身が変わっているかどうかを見ます。レポートの体裁がきれいになっただけで、書かれている打ち手が毎月同じなら、浮いた工数は自社には戻っていません。
担当者が変わるのも、原価の話
担当者の交代が続く代理店があります。発注者からは不誠実に見えますが、構造としては原価の調整であることが多いです。
経験の長い担当者は人件費が高く、同じ手数料の案件に長く置くほど原価率が上がります。立ち上げが終わって運用が安定したら、経験の浅い担当に引き継ぐ。会社としては合理的な判断です。
問題は、引き継ぎで背景の理解が失われることです。なぜその構造にしたのか、過去に何を試して何が駄目だったのか。ここが伝わらないと、新しい担当者は同じ失敗を繰り返します。
防ぐ方法は1つで、発注者側が記録を持っておくことです。試した施策と結果を自社の資料として残しておけば、担当者が変わっても過去の積み上げは消えません。
レポートに使われている時間を見積もる
月8時間しか使えない案件で、レポートの作成に3時間かかっていれば、運用に残るのは5時間です。
レポートの形式を独自に指定するほど、この時間は増えます。数字を手で転記し、体裁を整え、コメントを書く。見栄えのよい資料は、運用の時間を削って作られています。
見たい数字が決まっているなら、形式は代理店の標準に合わせて、そのぶん分析と提案に時間を使ってもらうほうが、受け取る価値は大きくなります。レポートで何を見るべきかはレポートの見方の記事に書いています。
発注者が原価構造を知って、何に使うか
1. 手数料の交渉材料にする
「安くしてほしい」ではなく、「媒体費を増やす予定があるので料率を見直したい」と伝えます。媒体費が増えれば手数料額も増え、代理店側の原価率は下がります。相手にとっても受け入れやすい話になります。手数料の相場は手数料の記事にまとめています。
2. 担当者の負荷を確認する
契約前でも契約後でも、「担当者は何社を持っていますか」と聞けます。この質問に即答できない、あるいは20社を超えるという答えなら、自社に使われる時間は週2時間以下だと考えて計画を立てます。
3. 任せる範囲を決め直す
限られた時間を何に使ってほしいかを、こちらから指定します。レポートの体裁に時間を使われるより、クリエイティブの検証や配信構造の見直しに使ってほしいなら、そう伝える。発注者が優先順位を示さないと、代理店は作業しやすいものから埋めていきます。
安い代理店の原価構造
手数料が極端に安い代理店も、原価の構造は同じです。人件費が原価なら、安くする方法は1つしかありません。1人あたりの担当社数を増やすことです。
月160時間で40社を持てば、1社あたり4時間。設計を見直す時間はなく、テンプレートの運用と自動レポートで回すことになります。これが悪いとは限りません。既に型が決まっていて、維持だけでよい案件なら合理的な選択です。
合わないのは、設計から考え直す必要がある立ち上げ期や、成果が止まっている状態の案件です。ここで安さを選ぶと、止まったまま時間が過ぎます。
判断の目安として、月の手数料を作業時間で割った単価を出してみてください。手数料10万円で月4時間なら時間あたり2.5万円、手数料20万円で月16時間でも時間あたり1.25万円です。安い代理店のほうが、時間単価では高くつくことは珍しくありません。
まとめ:買っているのは、担当者の時間
- 代理店の原価はほぼ人件費。手数料の半分前後が人の時間に使われている
- 自社に使われる時間は「月の稼働時間 ÷ 担当案件数」で概算できる
- 媒体が多い、やり取りが多い案件は代理店の原価率を押し上げ、優先順位を下げる
- 定型作業の工数は減っている。浮いた分が自社に戻っているかは、提案の中身で分かる
- 値下げより、工数の使い道を指定するほうが受け取る価値は上がる
手数料の数字だけを見ても、高いか安いかは判断できません。その金額で何時間が自社に使われ、その時間が何に使われているか。そこまで見て初めて、費用対効果の話になります。
よくある質問
広告代理店の原価は何ですか?
ほぼ人件費です。運用担当者や営業の人件費が手数料の半分前後を占め、残りがオフィスやツールなどの管理費と利益になります。
手数料20%のうち、いくらが運用に使われていますか?
運用担当者の人件費は30〜40%が目安です。手数料20万円なら6〜8万円程度が、実際に手を動かす担当者の時間に対する費用になります。
自社にどれくらいの時間が使われているか分かりますか?
担当者の持ち案件数から概算できます。月160時間を20社で割ると1社あたり8時間、週2時間です。契約前でも「担当者は何社持っていますか」と聞けます。
担当案件数が多い代理店は避けるべきですか?
一概には言えません。型が決まっていて維持が中心の案件なら問題ありません。立ち上げ期や成果が止まっている案件では、時間をかけられる体制が必要です。
手数料を下げてもらうにはどう交渉すればいいですか?
値下げを求めるより、媒体費を増やす前提で料率の見直しを提案するほうが通りやすいです。代理店側の原価率が下がるため、相手も受け入れやすくなります。
手数料が安い代理店は何が違うのですか?
1人あたりの担当社数を増やして単価を下げています。1社に使える時間が短くなるため、テンプレートの運用と自動レポートが中心になります。