1件獲得するたびに7,350円の赤字が出ていた。それでも広告が止まらなかった理由を、元代理店の人間が書きます。

この記事の結論

目標CPAの決め方は、売上から原価と広告費を引いて黒字が残るかという損益分岐点が土台です。多くの現場ではLTVという言葉で評価期間を延ばし、短期の赤字をぼやかして予算を維持しています。広告の費用対効果を守るには、事業KGIから逆算した目標CPAを自社で持つことが必要です。

これまでWebマーケを出稿したことがない企業や、出稿を検討している方は、必ず思う疑問だと思います。

YouTubeとかInstagramとかXで広告がよく流れてくるけど、あれって誰が買うの?と。出稿したことがない方はほぼそう思うと思いますし、かくいう私も、こんなものに意味はあるのか?と思ったことは数え切れません。

Web広告に効果はあるのか

で、結論ですが、期待ほどではないが、効果は必ずある、です。

なぜそう言い切れるかというと、何十アカウント単位で広告運用をしてきて、CVが0件です、CPAが想定対比の10倍です、となった試しがほぼないからです。

もちろん、細かく話をすればどういう効果があって、どういう効果がないのか、それが事業にとって本質的な成果なのかなど論点はあります。ただ、数字でいくらでも可視化できてしまうWebは、逆に言うと何とでも解釈できてしまうのも事実ですよね。だからこそ私は、あえて効果は必ずあると言い切ります。

目標CPAはどう決められているか

で、少し細かい話をすると、そもそもWeb広告でよくKPIにされるのが、CV数、目標CPA、ROAS〇〇%以上、LTV、CACあたりですよね。

私は広告代理店に勤めていましたが、Web広告の出稿を依頼される企業の中で、広告成果のKPIと事業のKGIをきちんと接続できている企業様は、正直ほとんどいなかった印象です。

なので大抵は、最低限投資回収が見込めるであろう金額を広告費として設定し、目標CPAを置き、それを超えなければ赤字にはなりにくい。かつ、上層部にも説明が通しやすい。そういった前提で運用されるケースが多いです。

その結果、目標CPAを超えなければディスカウントやリプレイス、超えれば予算増額という判断になりがちです。

ただ、これって冷静に考えると少し微妙ですよね。単純に、広告費をどこまでかけていいのかという話は、実はそこまで複雑ではなくて、

売上 −(原価 × 製造数 + 広告費 ※代理店手数料含む)> 0

これだけの話なんですよね。もちろん、自社の人員リソースなども考慮は必要ですが、まずはこの考え方がベースになるはずです。

ただ、この式に当てはめると、ほとんどの場合、算出される目標CPAや広告費って現実的にクリアが難しい数値になることが多いんです。

これは代理店にいたから分かるのですが、指標を厳密に詰めれば詰めるほど、代理店側は不利になりがちです。そうなると、アカウントをスケールさせにくくなる。

そこで出てくるのが、LTVという考え方です。

LTVというロジックの正体

この考え自体は本質的に正しいですし、正面から否定するものではありません。ただ、あえて言うと、評価期間を延ばすことで、短期的な数字をぼやかし、予算を減らしにくくするためのロジックとして使われている側面もあると私は感じています。

なぜなら、私自身がそういう使い方をしていた時期があるからです。笑

例えば、ある化粧品ブランドのアカウントを運用していた際、トライアル商品の広告を配信していたのですが、本体価格が1,650円、目標CPAが9,000円で設定されていました。

これは、過去事例的にこのくらいですという話と、あとは御社でご判断くださいという形で決めていたのですが、冷静に考えると、このCPAで配信した時点で1件あたり7,350円の赤字です。

もちろん原価はもう少し低いと思いますが、それでも大きく赤字であることに変わりはありません。

ただし、クライアントから原価率や製造数、実際の予算感などをヒアリングしていくと、ぼんやりと本来あるべきCPAは見えてきます。ただ、それを正面から受け止めると、そもそも広告配信する意味がないという結論に至ってしまうケースも出てくる。

だからこれまでは、認知で〜、CRMで〜、といった話で論点を広げながら、CPAの意味合いをぼやかして、なんとか広告を継続させる、ということが多かったです。

そこに一石を投じたのが、LTVという概念です。言葉としてもかなり強いですよね。生涯顧客価値ですから。

例えば、1,650円の商品をCPA9,000円で獲得したとしても、その後に5,000円の化粧水を定期購入してもらい、仮に2ヶ月継続してくれれば、

5,000円 × 2 + 1,650円 = 11,650円

11,650 ÷ 9,000 = 約129%(ROAS)

となり、黒字ですと言えるわけです。

これって、本当に正しいんですかね?

少なくとも、ユーザーが継続してくれるかどうかは、代理店の広告の作り方というより、プロダクトそのものの価値で決まる部分が大きいはずです。この広告から流入したからLTVが高いですと言われても、正直そこに納得感はあまりないと思っています。

そして、プロダクト起因にできてしまえば、代理店としてはそこで役割を終えられる。あとは、LTVを加味した想定値、過去実績ベースでROAS100%を超えるCPAで運用しますね、と言ってしまえば、構造上は成立してしまう。

極論、代理店はそれで勝ててしまうんですよね。

発注者側でやるべき3つのステップ

では、どうすればいいのかという話をします。

結論から言うと、広告費の設計は代理店に任せきりにしてはいけない。自社でKGIからの逆算ができる状態を作ることが、広告運用を正しく機能させる唯一の方法です。具体的には3つのステップで整理できます。

① 自社のビジネスモデルにおける本当の損益分岐点を把握する

② LTVを使う場合は、自社のリピート率・継続率の実績データをベースにする

③ KPIと事業KGIの接続を自社で持つ

まず自社のビジネスモデルにおける本当の損益分岐点を把握することです。原価・製造数・広告費を含めたうえで、1件獲得にかけられる上限コストを自社で算出できているかどうか。ここが出発点になります。

次にLTVを使う場合は、必ず自社のリピート率・継続率の実績データをベースにすることです。過去の購買データがない段階でのLTV設計は、根拠のない楽観論になりやすい。代理店から提示されたLTVの数字には、必ずその根拠を確認してください。

そして最後に、KPIと事業KGIの接続を自社で持つことです。目標CPAやROASは代理店が決めるものではなく、事業側が決めるものです。その基準を自社で持てるようになると、代理店との会話の質がまったく変わります。

とはいえ、これを一から整理しようにも現場は数字をうまく作ることが最優先とされ、マネージャーは上程用や報告資料作成に忙殺され、ここを考える人が組織内で誰もいないというケースが非常に多いと感じます。

私自身が代理店側にいたからこそ、Web〜プロダクトの収支計算について分かることがあります。代理店の出してくる数字の読み方、LTVの根拠の確認の仕方、事業KGIからのKPI設計の方法。こういった話は、一度整理してしまえばそれほど複雑ではありません。

よくある質問

目標CPAはどうやって決めればいいですか?

売上から原価と広告費を引いて黒字が残るかで決めます。1件獲得にかけられる上限コストを自社で算出できているかが出発点です。

代理店が決める目標CPAをそのまま信じていいですか?

避けたほうがよいです。目標CPAは事業側が決めるものです。過去事例的にこのくらい、という提示には根拠の確認が必要です。

LTVを使えば赤字でも黒字と言えるのですか?

計算上は言えてしまいます。評価期間を延ばして短期の数字をぼやかす使われ方があるため、根拠となる継続実績の確認が欠かせません。

LTVを目標設計に使うときの注意点は何ですか?

必ず自社のリピート率や継続率の実績データをベースにします。購買データがない段階でのLTV設計は、根拠のない楽観論になりやすいです。

Web広告に効果はあるのですか?

期待ほどではないが効果は必ずあります。多数のアカウントを運用してきて、CVがゼロや想定の10倍のCPAになった例はほぼありません。

発注者側でまず何を整えるべきですか?

損益分岐点の把握、実績データに基づくLTV設計、KPIと事業KGIの接続の3つです。これで代理店との会話の質が変わります。

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